よく物流関連2法改正と言われていますが、正確には「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」と言います。長いですね(汗)。今回の記事では、この眠くなりそうな法律の改正案について分かりやすく説明していきます。この法律の改正について新旧条文や法律の要綱などがありますが、それらすべてを網羅するような説明をしても混乱を招くだけなので、かいつまんで説明していきます。本記事をお読みいただくにあたって、まずは下記リンクで概要をご確認ください。
流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案(国土交通省ウェブサイトより)
法律改正の施行
法律の改正は一般的に次の流れで進行します。
①法律案の作成 ⇒ ②法律案の閣議決定 ⇒ ③国会における審議 ⇒ ④法律の成立 ⇒ ⑤法律の公布 ⇒ ⑥法律の施行
今回の法律の改正は⑤法律の公布(令和6年5月15日)まで進行しています。交付された法律は1年以内に施行日を制定するとなっていますが、今回改正された法律の中で、次の二つの条項については施行日が決定しています。
公布日から1月以内施行(令和6年6月1日施行)
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が行う流通業務総合効率化事務に係る「出資」の業務追加(流通業務総合効率化法)
公布日から3月以内施行(令和6年8月1日施行)
地方実施機関による荷主の違反原因行為の国土交通大臣への通知(貨物自動車運送事業法)
他の改正法附則の条項の施行日については、今後、閣議により決定されます。法改正は公布されても施行されるまでは機能しません。公布された後、施行されるまでに、さらに改案されることや廃止になることなどもあるので、今後も情報収集が必要ですね。
荷主・物流事業者に対する規制的措置
では、「荷主・物流事業者に対する規制的措置」から見ていきます。まず、法律の名前が「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」から「物資の流通の効率化に関する法律」に変わりました。基本理念は「将来にわたって必要な物資が必要なときに確実に運送されることを旨とすること等」となっています。法律の要綱には次のように記載されています。
「物資の流通に関する事業を行う者等は、貨物自動車運送役務の持続可能な提供の確保に資する措置を講ずるよう努めなければならないものとすること。」
これが努力義務というやつです。荷主や倉庫、流通センターなど出荷に関わっている人たちは、トラック運送業者が「このままでは続けられない」とならないように、効率化などを行う努力をしてくださいね、ということです。義務化と違い努力義務には従わない場合の罰則がありませんが「努めなければならない」と書かれている限り、無視をしていてもよいというものではありません。
続けて内容をざっくり見ていくと、一定規模以上の荷主・倉庫業者・連鎖化事業者(フランチャイズチェーンの本部)は特定〇〇(荷主・倉庫業者・連鎖化事業者が入ります)として指定され、指定されると中長期計画の作成・提出・実施状況の報告・統括管理者の選任、が義務付けられるということが分かります。ここでは、この概要だけでは分からない、気になる点について解説していきます。まず、一定規模とは何ぞや?ということ。これに関しては、法律の要綱に
「年間一定量以上の輸送を行っている」
とあります。まだどのぐらいの規模なのか謎ですね。さらに読んでいくと
「その事業者が行う事業の所轄大臣が、貨物の受け渡し状況を立ち入り検査などを行い確認して指定を行う」
というような内容が。つまり、国の関連機関が実際の状況を判断して指定するということです。具体的な判断基準などは今のところ示されていません。国⼟交通省・経済産業省・農林⽔産省が作成した資料において、「下位法令として検討する必要のある事項」に含まれていることから、今後、詳細が決まっていくと思われます。
出典:「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」に関する業界団体向け説明会について(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/setsumeikaishiryo.html)
※画像(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/setsumeikaisiryou.pdf)を加工して作成
次に、中長期計画って何を計画するの?ということについて。これも法律の要綱を見るとハッキリ書いてありました。
「運転者の荷待ち時間等の短縮及び運転者一人当たりの一回の運送ごとの貨物の重量の増加を図るための措置を講ずるよう努めなければならない」
とあります。例には「バラ積みバラ卸しをパレットに」がありましたが、なるほど待機時間の短縮対策ですね。この具体的内容についても「下位法令として検討する必要がある事項」に含まれていました。何をどのくらい行えばよいのかという指標はこれから示されるようです。
※画像(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/setsumeikaisiryou.pdf)を加工して作成
トラック事業者の取引に対する規制的措置
次は「トラック事業者の取引に対する規制的措置」について見ていきます。荷主や元請け運送会社は、運送契約の際、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む。)等について記載した書面による交付等が義務づけられます。法律の要綱を見るとさらに詳しく続きます。
「利用運送を行う場合(自社で請け負った運送を下請け事業者に依頼する場合)、下請け事業者が健全な運営の資する(助けとなる)ように務めなければならない(努力義務)」
とあり、これを利用運送の健全化措置としていました。
【健全化措置について条文に記載された内容】
一 その利用する運送に要する費用の概算額を把握した上で、当該概算額を勘案して利用の申込みをすること。
二 自らが引き受ける貨物の運送について荷主が提示する運賃又は料金が前号に規定する概算額を下回る場合にあっては、当該荷主に対し、運賃又は料金について交渉をしたい旨を申し出ること。
三 当該他の一般貨物自動車運送事業者が更に他の一般貨物自動車運送事業者の行う運送を利用する場合に関し二以上の段階にわたる委託の制限その他の条件を付すること。
四 その他一般貨物自動車運送事業の健全な運営の確保に資するためのものとして国土交通省令で定める措置
特に気になったのは三に記載された二次下請け以下の委託制限について。そこで国土交通省に電話による問い合わせを行いました。「多重下請けのせいで適正な運賃が貰えないということを防ぐのが目的であって、二次下請け以降の下請けを禁止するということではない。実運送会社が適正な運賃を収受できるような配慮として努力してほしい。」とのこと。努力義務なので罰則などはないのですが、実運送会社が適正運賃を収受できるような工夫をする必要がありそうです。
※画像(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/setsumeikaisiryou.pdf)を加工して作成
法律の要綱を読み進めると「特別一般貨物自動車運送事業者」というワードがあらわれます。これは特定荷主などと同様に、利用運送で外注している数の規模が一定以上の一般貨物自動車運送事業者のことです。この特別一般貨物自動車運送事業者に該当する業者は健全化措置の実施に関して規定を定めて国土交通大臣に届け出なければなりません。さらにこの規定には
「事業の運営の方針に関する事項等を定めておかなければならない」
とあります。さらにこれらを主導して行う担当者として、
「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者のうちから、運送利用管理者一人 を選任しなければならない」
としています。これらは義務化されたものなので、行わなければ罰則があります。さらに義務化される条項が続きます。実運送体制管理簿の作成が義務付けられます。これは難しく考える必要はありません。荷主から受けている元請運送事業者は、実際に走った実運送会社の商号、又は名称を記載した記録簿を作成する義務がある、というものです。どんな運送会社でも配車記録は残しているでしょうから大丈夫だと思います。そして、元請運送事業者に義務付けられているものとして、「元請連絡事項の通知」があります。下請業者に元請運送事業者の連絡先などを通知しなければならないというもの。これはさらに1次下請けから2次下請け、さらにその下の場合でも同様で、元請運送事業者の連絡先を実運送会社まで通知することが義務付けられています。2次下請け以降の会社に飛び越し営業をされやすくなる、などの問題も出てきそうですが、義務化されたら守らなければならなくなるので仕方ないですね。
軽トラック事業者に対する規制的措置
貨物⾃動⾞運送事業法を改正することで軽トラック事業者に対する規制的措置が行われます。軽トラック事業者に対し、①必要な法令等の知識を担保するための管理者選任と講習受講、②国土交通大臣への事故報告が義務付けられます。国土交通省による公表対象に、軽トラック事業者に係る事故報告・安全確保命令に関する情報等を追加します。軽トラック運送業において、死亡・重傷事故件数は最近6年で倍増しており、事故を減らすことを目的とした法改正がなされたようです。この他にも安全講習を行う業者の認定・取り消しなどの規定などが追加されるようです。
※画像(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/setsumeikaisiryou.pdf)を加工して作成
法改正による影響
荷主(倉庫・連鎖化事業者含む)は努力義務だけで、中長期計画の作成や報告、物流統括管理者の選任などを義務づけられるのは一定規模以上の業者だけで済みます。また、作成、報告とはいえ取り組む内容は努力義務の範囲なので、計画内容の不履行について罰則を受けるようなことはなく(指導・調査・助言・公表はある)、そこまで慌てることはないのかもしれません。しかし、荷主にとって心配なのは、この法改正の施行によって、今まで通りトラックが確保できるのか?というところです。運送事業者に課される努力義務や義務は、見てきて分かるように運送事業者同士の自由な経済競争を阻害する可能性があります。いき過ぎた多重下請けは確かに是正すべきかもしれませんが、利害の一致が成立している三次請け、四次請けのような関係まで規制するようになると、逆に物流を非効率にする可能性もあります。
また、これまで営業で培ってきた顧客を失うかもしれない、と飛び越し営業を助長するような法改正を懸念する運送事業者の声は少なくありません。これまでも市場は自由競争によって活性化してきました。それでは、法によって自由を失う運送市場はどうなっていくのでしょう?市場が縮小すれば、物流は持続不可能になってしまいます。運送市場が最も活性化し膨らんだのは規制緩和による新規参入が増えた頃であると、歴史が物語っています。人口が減少傾向にある今こそ、政府には運送市場を活性化させるような思い切った政策を期待したい、と筆者は思っています。
まとめ
物流関連2法改正のすべてが施行されると、運送事業者には制限・制約が増えます。荷主は今のところ努力義務ですが、これによる影響で繫忙期にトラックが捕まらないことがあるかもしれません。今のうちに対策を練った方がよさそうですね。
お知らせ
『流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案』(国土交通省ウェブサイト資料)が交付決定され、下請けに対する規制が厳しくなると繁忙期のトラックさがしも一層難しくなりそうです。そこで、新たに協力会社と知り合う新規開拓をするのも一つの手です。運送業の新規開拓の新しい形、配車ステーションについて詳しくはこちらをご覧ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!